大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和34年(ネ)592号 判決

控訴人(原告) 河戸嘉蔵

被控訴人(被告) 信夫村大森地区土地改良区・福島県知事

原審 福島地方昭和三一年(行)第五号(例集一〇巻一〇号192参照)

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は合式の呼出しを受けながら、昭和三五年三月八日午前一〇時の当審最初の口頭弁論期日に出頭しなかつたので、その提出にかかる控訴状に記載した事項を陳述したものとみなし、被控訴代理人らに弁論を命じた。右控訴状の記載によれば、本件控訴の趣旨は「原判決を取り消す。被控訴人信夫村大森地区土地改良区の設立は無効であることを確認する。被控訴人福島県知事が昭和三一年二月一〇日付でした。被控訴人信夫村大森地区土地改良区の申請にかかる区画整理の施行を認可する旨の処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否はすべて原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一、控訴人の被控訴人信夫村大森地区土地改良区(以下単に被控訴改良区と略称する。)の設立無効確認請求に対する被控訴人らの本案前の抗弁について判断するに、一般に、行政処分無効確認訴訟については、訴提起の要件に関する行政事件訴訟特例法二条の規定は準用されないものと解すべきであるから、この点に関する被控訴人らの抗弁は失当であり、採用できない。

二、控訴人の被控訴改良区の設立無効確認請求についてした原審の判断は相当であるから、原判決の理由中、この点に関する記載部分を引用する。

三、よつて、控訴人の被控訴人福島県知事(以下単に被控訴知事と略称する。)に対する本件区画整理施行認可処分の取消請求について判断する。

被控訴知事が被控訴改良区の申請に基づき、昭和三一年二月一〇日付で同改良区が新規土地改良事業としての区画整理を施行することを認可し、即日その旨公告したことは当事者間に争いがない。土地改良法四八条は、土地改良区の申請に基づき都道府県知事がした施行認可申請を適当と認める旨の決定に対しては、同条三項により準用される同法九条に基づき、当該都道府県知事に異議を申し立てることができると定めているが、右施行認可処分そのものに対しては、異議申立もしくは訴願を提起し得る旨を定めたなんらの規定も存しない。ところで、土地改良法が異議を申し立てもしくは訴願をすることのできる場合を個別的に規定している(たとえば、同法四一条、八七条、八七条の二、八七条の三、九〇条、九五条、九五条の二、九六条の二、九八条、九九条など)ところからみれば、同法はこのような明文のあるときに限り異議訴願を認めたものであり、そのほかの場合は異議、訴願を許さないものと解するのが相当であるから、右施行認可処分については異議、訴願の途はなく、したがつてその取消しを求める行政訴訟は行政事件訴訟特例法二条本文の制約を受けるものでないことが明らかである。

本件において、控訴人は昭和三〇年一二月一五日被控訴知事に対し、同知事が本件施行認可処分をするにさきだつてした被控訴改良区の施行認可の申請を適当とする旨の決定に対し異議を申し立てたが、昭和三一年二月九日棄却されたことは当事者間に争いがない。そして、控訴人が被控訴知事のした本件施行認可処分そのものに対し異議申立もしくは訴願を提起しなかつたことは控訴人の主張自体に徴し明らかであるが、前に説述したように、右施行認可処分に対しては異議、訴願が許されないのであるから、控訴人がただちに本訴を提起し得ることはもちろんである。

しかしながら、本件施行認可処分が公告されたのは昭和三一年二月一〇日であるから、他に特段の事由のない限り、控訴人はそのころこれを知つたものというべきであり、したがつて、控訴人は右同日から六箇月以内に本訴を提起しなければならなかつたのに、右出訴期間を徒過して同年九月一二日にいたり本訴を提起したものであることは本件記録上明白であるから、本件訴はこの点で不適法として却下を免れない。

してみれば、控訴人の本訴請求中、被控訴改良区の設立無効確認を求める部分は失当であるからこれを棄却すべきであり、また被控訴知事のした本件施行認可処分の取消しを求める訴は不適法として却下すべきであるところ、原判決は後者につき、訴願前置の要件を欠くものであると判断したのは不当であるけれども、右訴を不適法として却下した点では正当であるから、原判決は結局全部正当であつて、本件各控訴はいずれも理由がない。

よつて、民訴法三八四条二項、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 石井義彦 佐藤幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例